ぽろっぽの日記

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読書メモー永井荷風『濹東綺譚』ー

永井荷風の『浮沈』『踊子』が中々おもろしろかったので、続けて彼の作品の『濹東綺譚(ぼくとうきたん)』を読んでみた。

 

濹東は浅草から隅田川の東向こうの寺島や向島などを舞台にしているからこのタイトルが付けられたそうだ。隅田川(すみだがわ)の隅に濹という漢字を当てて、その東側だから濹東とのこと。

 

中年作家の主人公が隅田川の東の界隈にいる娼婦のお雪を梅雨の雨の時に、傘にいれたことをきっかけに交遊をする。娼婦と交遊と聞くと、今の僕らの世代には風俗嬢に貢いでいるような印象を受けるが、なぜか永井荷風のこの作品を読んでいるとそうは感じられない。

 

単純にお金のやりとりで性的な交遊関係が保たれている印象を受けないのだ。それはこの永井荷風の描いた時代背景がそうだったのか、あるいは彼の小説のフィクションの力でそうさせているのはわからない。とにかく彼の作品を読むと主人公と娼婦との関係になぜか興味をひかれ、四季や風景の描写もあいまって、そこに情緒や哀れみを感じてしまっている自分がいた。特に夏の夕方、主人公の住んでいる住居は暑く、隣家のラジオも騒々しいので、隅田川の川風に当たって涼みながら、静かな時間を過ごすために、お雪のところに足を向ける描写は下町ならではの味と風流をそこに感じさせる。そういう作品の印象を受けた。

 

なんとなくこの作品を読んでいると、川端康成の『雪国』と似たような印象を受けた。『雪国』の主人公が芸者の駒子との関係が、この『濹東綺譚』の主人公と娼婦のお雪の関係に似ており、互いに金銭や性的や交換だけでなく、心を通わしており、どちらの作品も季節の移り変わりを繊細に描写され、情緒を感じさせる。

 

川端康成永井荷風のいた時代はもっと風流を楽しみ、人とのつながりにおいて情緒的なものがそこにはあったのかもしれない。きっと今の時代に同じような作品を書いたら、男尊女卑だの、教育上良くない、これは単なる官能小説だのと、批判は避けられないだろうが、僕らの世代は何でもかんでも便利、効率、正義が求められる時代だから、そういうものはみんな戦後に失ってしまったのかもしれない。

 

今週のお題「読書感想文」